「高齢者向けシェアハウス」の普及と懸念点。
部屋は個室を確保しながらも、複数人が一つの賃貸住宅で住居設備を共有しながら暮らす「シェアハウス」。
特に「高齢者向け」を謳うシェアハウスが、まだ発展途上ではあるものの、全国的に見られるようになってきています。
行政を巻き込み実験的に運営している地域もあれば、すでに事業化している民間企業もあります。既存の旧家等を改装し運営しているNPO等もあります。
高齢者にとっては昔からある「高齢者下宿」の現代版とも言え、経営側が最初からそのつもりで運営していることもあり、高齢を理由に入居を断られることは少ないとされます。
もっとも、小規模で細々と営まれていたこれまでの「高齢者下宿」と比べると、多少の相違点もあります。
採算性の見込める事業として、最初からある程度の規模で展開する民間企業が出てきていること。
必ずしも高齢者ばかりでなく、若い人やシングルマザーらも住居人となっている、いわば「多世代型のシェアハウス」が出てきていること、等です。
高齢者向け共同住宅の、メリットと問題点。
高齢者向けシェアハウスの最大のメリットは、個室で暮らせることで「プライバシー」と「自立心」を保てること、そして集団で生活することが孤独・孤立感からくる不安を和らげてくれる、ある種の「見守り」として機能していることにあるでしょう。
「住み慣れた地域で、これからも暮らし続けたい」と考える高齢者が大半ですから、地元にあるシェアハウスなら、その願いも叶えられることなります。
有料老人ホームやサ高住においては、介護用品費や生活相談サービス費など月々のサービスの維持費用が結構な金額になることから、低所得者層が長く住み続けるには厳しい面があります。
高齢者用シェアハウスは一般に月々の総費用が収入の7~8割程度に収まりやすく、経済的な負担感を感じにくい点もメリットです。
一方、デメリットも少なくありません。
住宅をシェアしている以上、食事・外出時の届出や門限・入浴や消灯時間など決して少なくない、共同生活を続けるためのルールが設けられています。
それらを心理的負担とすること無く、高齢者がこれまで築いてきた自身のライフスタイルと両立できるのか、といった基本的な問題があります。
それぞれ事情の異なる複数の他人と暮らすことからくる「シェアハウス特有の問題」も、高齢者が主だからといって無くなることはありません。
たとえば耳の遠い隣の入居者がいつもテレビの音量を大きくしていて、隣の部屋の住人とのトラブルが絶えないといった事例。入居者が入れ替わることによる、防犯面(盗難等)のリスクもあるでしょう。
「空き家問題の解決につながる」とする声もある一方、一定数の入居者を確保できなければ、施設や設備ごとスラム化するリスクもあります。
防火・消火設備も不十分なところが多く、万一の災害時の対応にも不安が残ります。
本来ならば食事等の提供を行なうだけで「有料老人ホーム」に該当し、都道府県への届出義務が生じるため、行政からは「無届け施設」として扱われているところも多く存在します。
届出をすると「防火設備の設置」や「前払金の保全」などの義務も生じるため、それらを嫌がってあえて届出をしない運営者もいるようです。
無届け有料老人ホームとは何か。その背景と問題点とは。
介護施設のスプリンクラー設置義務化。
急病やケガなら、どの介護施設においても「救急車を呼んで病院に搬送する」というプロセスはほぼ同じなので、大きな問題は生じないかもしれません。
最大の問題は、「ある程度の介護が必要になった時の対応」です。
専門的な介護技術を必要とする状況に陥った場合、その施設に滞在したままで、本人にあった外部介護サービスを受けられるか否かが問題になります。
ここが、有料老人ホームや特定施設のケアハウスと大きく異なる点です。
個々に外部の介護サービスを利用するにせよ、シェアハウスを選択している以上、経済的余力が乏しい入居者が多いはずです。
介護保険の要介護認定を受けないまま入居している比較的健康な高齢者の場合、医療・介護面での対応が遅れ、身体状態が悪化する懸念もあります。
入居者の要介護度が重篤化したときに、施設としてどう対応するのか。
退去を求められる可能性もありますし、経験に基づくだけの感覚的な対応をとる施設もあることから、入居側にとって不安の残るところです。
提携病院の存在をアピールしていても、実態としては名義を借りているだけに近い施設も見受けられるため、この点は入居前に確かめておきたいところです。
高齢者住宅と「入居後の要介護度悪化」。
超高齢化社会のもと、高齢者の精神的なケアや生きがいに配慮しながら、見守りや介護のケアがきちんと行える施設に入る希望を満たすには、入居側の経済的負担があまりに重く、将来への不安が拭いきれない現況です。
地域包括ケアを推し進めている国のスピーディな関連法令の整備、そして実態に即した柔軟な運用が望まれます。
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