介護保険三施設と、高齢者住宅の今後。


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全供給数の4割強を占める「介護保険三施設」とは。 でとりあげた、介護保険の「施設サービス」が適用される「介護保険三施設」について、前コラムで掲載した(1)-(3)の順番に沿って説明します。


(1)「介護老人福祉施設」(「老人福祉法」上の特別養護老人ホーム、「特養」と略称)は、希望者は自由に申し込めるものの、一般的に入居待機者が非常に多く、入居待ちの期間も長期化することが普通です。入居の決定においては、入所の必要性が高い人・緊急性が高い人が優先されます。

なお2015年(平成27年)4月の「改正介護保険法」により、今後の特養への新規入所は、原則として「要介護3以上」に限られることとなりました。

「介護老人福祉施設(特養)」は全国に7,249施設(2014年)あり、要介護高齢者の中心的な生活施設として位置づけられています。

介護機能に最も重点を置く施設となっていますが、その分入所者も80歳以上の高齢者が過半を占めており、退院できないままに看取られる入所者が相当数に達する現状があります。

厚生労働省の調査によれば、介護老人福祉施設(特養)に入所後そのまま亡くなった方の割合は72.7%(2013年)に達します。


(2)「介護老人保健施設」(「老健」と略称)は、リハビリによる在宅復帰の支援を基本的機能としており、3ヶ月ごとに入退所の判定が行われ、そこで入所を継続するか帰宅となるかが判断されます。

入居期間は原則3~6ヶ月に設定され、いずれ退所が必要になるのが「老健」です。

しかしながら、設定された期間より長く在所する人が多いのが実情です。ちなみに同施設での平均在所日数は311.3日(2013年調査)です。

「介護保険三施設」の中でも中間的な位置づけとなっており、在宅復帰を目指すと言いながらも、介護老人福祉施設(特養)へ入所するまでのつなぎとして利用されることも多くなっています。

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(3)「介護療養型医療施設」は、介護と医療の両方を必要とする高齢者が長期療養のために入所する施設です。

介護保険が適用される方は「介護保険型療養病床(介護療養病床)」と呼ばれ、居室数にしておよそ5.9万床(2016年3月現在)です。かつての「老人病院」にあたる医療施設です。

ちなみに医療保険が適用される施設は「医療保険型療養病床(医療療養病床)」と呼ばれ、約28万床(2016年3月現在)あります。

高度な手術などは行われないものの、一般の病院と変わりなく、医師が24時間体制で治療にあたっています。


介護療養型医療施設(介護療養病床)」は、介護老人福祉施設(特養)や介護老人保健施設(老健)と比べて医師や看護師の数も多く、利用者一人あたりの月額費用もそれらの施設より極めて高くつくなどの理由から、費用対効果に問題があるとの懸念が高まっていました。


加えて、医療や看護をほとんど必要としない入所者が約半数を占める、いわゆる「社会的入院」から生じる給付費の無駄が指摘されたこと、介護保険ではなく医療保険が適用される「医療保険型療養病床(医療療養病床)」(「介護療養型」と「医療保険型」のどちらの療養病床に入院するかは、病院側の判断によります)と機能が似ていることも、これまで指摘されてきました。

そのため厚生労働省は、介護療養型医療施設(介護療養病床)を基本的に廃止する方向で検討を続けています(廃止される既存施設は、他の介護施設への転換を促していく予定)。



【追記1】

介護療養病床の廃止は、当初予定していた期限まで他施設への転換が時間的に厳しいということもあり、廃止計画は2017年度末(2018年3月末)まで猶予されました。

また2012年4月からは、「介護療養型医療施設(介護療養病床)」の新設は認められなくなっています。

2015年の介護報酬改定では、「医療ニーズの高い入所者」への対応を強化するとして「療養機能強化型」の介護療養型医療施設が、新たに誕生しました。

介護療養型医療施設(介護療養病床)の廃止を謳う一方、重度者に手厚い医療を施すために新タイプの介護療養型を設ける必要もあるとして、部外者にとってわかりにくい話ではあるものの、国はこれを矛盾しないと考えていたようです。


【追記2】

厚生労働省の有識者検討会は、医療療養病床・介護療養病床の約14万床を2017年度末(2018年3月末)まで廃止し、医師・看護師らが24時間常駐する「医療内包型」と病院・診療所を併設する「医療外付型」の2種類の施設を、新たに設置する案を2016年1月にまとめました。

「介護療養型医療施設(介護療養病床)」は予定どおり全廃し、「医療保険型療養病床(医療療養病床)」は医療体制の整った新施設を追加しつつも、引き続き病院側に転換を促す狙いのようです。


介護療養型医療施設(介護療養病床)を出た高齢者が「老健」に移る場合、これまでのリハビリ施設としての「老健」は医療・看護体制が比較的弱かったことから、今後その機能を強化する必要があるとの厚生労働省の基本方針が打ち出されています(「転換老健」と称されます)。

この方針にもとづき、厚生労働省は2008年5月、患者受け入れ先の中核施設とするべく「介護療養型老人保健施設新型老健)」の制度をスタートさせています。

(「介護療養型老人保健施設(新型老健)」については、姉妹サイト「介護施設と介護老人福祉・保険施設 その種類と役割」介護療養型老人保健施設(新型老健)、その内容と問題点。を参照下さい。)


【追記3】

上記(追記2)の流れを受け、2017年5月に一括法として成立した「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」が成立しました。

その中の「改正介護保険法」にもとづいて(医療法も同時改正)、新たな介護保険施設として「介護医療院」が創設されました。

「介護医療院」の基本的な性格は「要介護者の長期療養のための医療、および日常生活上の世話(介護)を一体的に提供する施設」となります。

この「介護医療院」は、全国にいまだ約5.9万床(2016年3月現在)ある「介護療養病床」の主な転換先に位置づけられています。

介護医療院の利用要件や施設基準等の詳細については、これから社会保障審議会・介護給付費分科会で議論される予定です。


2018年3月末までの全廃予定で話が進められてきた「介護療養病床」ですが、今回の改正で(介護療養病床から介護医療院への)移行期間も考慮し、介護療養病床の廃止・転換期限を、2018年3月末からさらに「6年間延長」することになりました。

介護医療院については、平成29年(2017年)の介護保険改正(2)~ 「総報酬割」導入・「介護医療院」新設 もあわせてご参照ください。)



介護保険の適用による経済的負担の軽さが魅力なためか、介護保険三施設への入所希望者は、年々増え続けています。

なかでも特養は要介護度3~5からようやく入居対象とされ、しかも地域によっては数百人待ち・数年待ちも珍しくない状況であり、全国的にも入居が困難な状況になっています。

特養の入居待機者数は52.2万人(厚生労働省集計、2014年3月現在)に達し、5年前に比して10万人も増えました。その7割近くが要介護度3以上とも言われます。


その一方民間では、介護保険施設との費用的な差がそう大きくない「特定施設」となる「(介護付)有料老人ホーム」「ケアハウス」などが増えたこと、さらには2011年に「サービス付き高齢者向け住宅」が登場したことにより、選択の幅が広がってきていることも確かです。

種類別にみる高齢者の住まいと、入居者の輪郭。

2017年の改正介護保険法によって新たに「介護医療院」も登場しましたが、国がこれまで介護療養病床の転換先として進めてきた「新型老健」や介護付有料老人ホームなど民間の介護施設との「すみ分け」はどうするのか、といった問題も、近い将来に出てきそうです。


したがって高齢者住宅介護施設選びでは、まずは「入居前に、施設ごとの特徴をよく比較する」という意識を持って、情報収集に当たりたいものです。

次のコラムでは、介護保険の「施設サービス」が適用されない入所型の施設「有料老人ホーム」を中心にご説明します。

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