介護保険と「ケア付の高齢者住宅」。
「介護保険制度」は、ご存知のとおり介護保険法によって2000年度から設けられた制度で、介護される人(被介護者)の体の状態に応じ、利用者と居宅介護サービス提供事業者との契約にもとづいて、地域包括支援センターやケアマネージャー(介護支援相談員)のコーディネートにもとづいた介護(介護予防)サービスが受けられる制度です。
介護保険により受けられるサービスは、大きくは、要介護者のための「介護給付」、要支援者のための「予防給付」、そして市町村が指定・監督する「地域支援事業」の三つから成り立ちます。
このうち、「介護給付」として要介護者だけが受けられるのが、在宅で受けられる「居宅(在宅)サービス」と、施設に入所して受ける「施設サービス」、そして市町村が指定・監督しその市町村の居住者だけが受けられる「地域密着型サービス」となります。
要支援者が受けられるサービスは、「介護予防サービス」「地域密着型介護予防サービス」となり、その名のとおり、「介護予防」を目的としたサービスとなります。
要介護者が受けられる「介護給付」に比べ、サービスの名称は似ているものの、支給限度額や内容、利用回数の限定などが少なく軽めになっています(介護保険の予防給付(介護予防サービス)の概要 ご参照)。
市町村や地域包括支援センターに対して申請を行った後の要介護・要支援認定の結果により、地域包括支援センターの保健師等や居宅介護支援事業所のケアマネジャーと共に、サービスの利用計画となる「ケアプラン」を作る必要があります。
その後は支給限度額の範囲内で、利用者が希望するサービスを組み合わせて利用でき、原則として「サービス費用の9割が保険負担、1割が本人負担」となります。
この費用は、被保険者からの徴収分だけでなく、国・都道府県・市町村も負担しているわけです。
「介護保険制度」のスタート以前は、介護の有無や介護が受けられる場合のサービス内容をどうするかの判断・決定を市町村が行っていましたが、同保険の発足後は、受けたい場所やサービスについて、要介護者本人の意見や介護する家族の意見を尊重する仕組みが取り入れられたわけです。
さて介護保険は、介護サービスとそれにかかわる金銭負担の問題にとどまらず、生活の質の中核を占める「住まい」の問題についても、重要な位置を占めます。
介護保険も施行から10年以上過ぎ、高齢者の住宅問題も、当初用意されていた「介護保険が適用される入所施設か、それ以外か」という二択だけでは不十分で、いわばその中間を指向するグレーゾーン的なものも必要ではないか?という指摘が、だんだん行われるようになってきました。
「ケア付の高齢者住宅」が、その「グレーゾーン」にあたる考え方になります。
これは、住まいの近くに介護サービスの拠点などの施設機能を設けるなど、介護により一層配慮した賃貸住宅などのことです。
最近、保険料の過度な伸張を警戒する地方自治体が「特定施設」の指定を出さなくなっていることもあり、有料老人ホームの新たな建設が、全国的に制限されている状況にあります。
そこで、賃貸マンションに訪問介護のケアサービスや食事などの生活支援を導入したり、賃貸マンションの1階部分にデイサービス施設を備え付けるなど、新たなスタイルの「ケア付高齢者住宅」が脚光を浴びてきているわけです。
このような取り組みによって、これまでの暮らしを維持しながら必要に応じてケアを受けられるため、有料老人ホームに入居せずとも、事実上途切れの無いケアを受ける体制をつくれるわけです。
介護事業者の側にとっても、ただでさえ厳しい事業環境下、介護保険からの報酬だけで経営の採算を将来に向けて安定的にはかっていくことは、非常に厳しいのが現実です。
また今後の展望としても、国の財政がひっ迫する中で、介護報酬の自己負担割合が増加していくことが、容易に予想されるところです。
そうなると、今まで利用していたサービスを止めたり、利用回数を控えるなどの利用者サイドの動きが予想されるため、経営面でますます苦しい状況におかれる事業者が増加する可能性が高まります。
そのような先行き厳しい環境下、介護保険事業を行いつつ「高齢者住宅」経営を展開し、さらに住宅サービスを組み合わせながら利用者の囲い込みを行いつつ、経営を安定化させるための活路を見出そうとする狙いも、事業者サイドとしてはあるようです。
このように「ケア付の高齢者住宅」は、利用者側にとっても、また提供する事業者側にとっても、様々なメリットを有するものであると言えます。
そのコンセプトは、介護保険の理念である「介護予防の重視」を活かすとともに多様化する高齢者のライフスタイルにもそったものと思われ、これからの高齢者の生活の質に配慮した住居を決定することにおいても、重要な選択肢のひとつになることでしょう。
【平成24年(2012年)3月追記】
上記の実態を後追いするかたちで、2011年(平成23年)10月の高齢者住まい法の改正により、「サービス付き高齢者向け住宅」が創設されました。
「サービス付き高齢者向け住宅」、利用者が知っておきたい概要。
「ケア付の高齢者住宅」という考え方が、高齢者住まい法において「サービス付き高齢者向け住宅」という一つの住居モデルに結実したと考えてよいかも知れません。
「サービス付き高齢者向け住宅」では、登録基準として「安否確認サービス」「生活相談サービス」の提供を義務づけるとともに、2012年4月から改正介護保険法によって新たに追加された「定期巡回・随時対応サービス(24時間地域巡回型訪問サービス)」などの介護保険サービスを組み合わせて、高齢者の在宅生活を支えることが想定されています。
(平成24年(2012年)の介護保険改正(1)~定期巡回・随時対応サービス ご参照)
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