高齢者住宅と介護施設、懸念とリスク(2)。
現在の介護業界が抱えるいくつかの構造的な問題については利用者にいずれ影響が及んでくるものと考えて、以下のようなリスクに注意する必要があります。
(1)介護費用の負担増加リスク
まず2000年4月にスタートした介護保険法そのものが、3年ごとにサービス単価が見直され、5年ごとにその制度自体が見直される法律であることを、よく認識しておく必要あります。
現在専門家の間では、介護保険財政のひっ迫状況から考えて、制度の見直し時においては利用者負担が大きく増加することは避けられないだろうというのが、一般的な見立てとなっています。
利用者の1割負担が2割負担となった場合、金額的には現行の支出が仮に3万円ならそれが6万円となってしまい、大きく家計を圧迫することになります。
それ以降においても、そう遠からぬうちに、利用者が負担する介護費用の総額の水準が現在の二倍程度まで跳ね上がるだろうと言う識者もいるくらいです。
さらに、軽度の要支援者への給付打ち切りや、現在の要介護度1・2の認定者を「要支援」にまで引き下げるよう「要支援・要介護の区分認定を現在よりもずっと厳しく行う」ことによって、国が介護保険財政の負担軽減をはかってくるのではないかということも、多くの介護関係者が懸念するところです。
利用者としては現在の利用料金で、現状以上の介護サービスを期待したいのが本音ですが、このまま現状維持というわけにはいかないことが誰の目にも明らかな状勢ですので、制度改正時には、少なくとも介護費用の一定の負担増を覚悟しておく必要がありそうです。
(2)有料老人ホーム・高齢者住宅への入居・転居が困難となるリスク
また、介護施設の供給数という点では、どうでしょうか。
公的施設でいわゆる「終の住み家」となり得るのは介護保険福祉施設(特養)だけですが、殺到する入居希望に比べて供給数そのものが圧倒的に少なく、かねてよりその必要性が叫ばれているものの、施設建設の補助金が大きく削られたこともあって、特養の増加は今後とも期待しづらい状況です。
都道府県は現在、地域内における有料老人ホームの増加によって自らの介護保険財政が悪化するの防ぐため、いわゆる「総量規制」を敷くことにより、有料老人ホームの新設を厳しく抑制する傾向にあります。
この状況が長期化した場合、現在工夫しながら低価格で運営してい有料老人ホームや、比較的低廉なケアハウスなどの高齢者住宅への入居希望が集中し、希望する介護施設への入居や転居がますます困難になってくる恐れがあります。
その他にも入居希望が殺到した施設ではそれに対応するため設備投資やスタッフの人員増などを行わねばならず、結果的に入居費用やサービス価格の値上げに転嫁される懸念がでてきます。
あるいは、仮に企業努力によって価格は据え置かれたとしても、利用者の増加にスタッフの対応が追いつかずに、提供される介護サービスそのものが劣化する恐れもでてくることになります。
(3)入居施設における全般的な介護サービスの劣化リスク
介護保険における「介護報酬」は、ある意味で人手不足によって賃金が上昇していくという経済の基本原理が硬直化した、いわば「固定価格」です。
介護スタッフの年収平均は高くても400万円前後、さらには離職者の分をカバーするための残業時間は増加すれど給料は上がらないという、厳しい待遇・労働条件が止む気配がないこともあり、介護業界におけるスタッフの離職率は、年間およそ2割に達するといわれています。
大手の介護関連企業においても、このスタッフ確保の問題が、施設数の問題などよりもはるかに深刻で頭を悩ます問題となっているようです。
加えて施設で介護サービスを手がける非正規職員の割合も、近年では4割を軽く超える状態となっており、2025年には介護業界全体で約38万人強の人手不足になるだろうとの予測もあります。
そのため現在、業界においては、東南アジアなど外国人のスタッフの介護現場への受け入れについて真剣に議論され、一部の現場では具体的な実行段階に入っています。
すでにインドネシアからの介護士・看護師の受け入れなどが政策的に進められていることは、ご存知のとおりです。
介護施設側の自衛策として、現場経験の少ないヘルパー2級程度のスタッフの採用数を多くしたり、あるいは少ない人員のまま彼らの労働時間を長時間化して対応せざるを得ないため、いずれにしてもそのような状況を長く放置している施設は、サービスの質そのものがどんどん劣化していくことになります。
施設の利用者として質の高いサービスを受けるためにも、入居施設がスタッフの人員充足・育成に対してどのような方針で臨んでいるか、またこれまでの方針に急激な変化が起きていないかなどについて、利用者の家族が定期的にチェックを行うことが極めて大切になります。
このようなリスク以外にも、「介護保険」というシステムは現在様々な面でほころびを呈しつつあり、介護財政の大幅な改善が期待薄である以上、残念ながら今後、利用者にとってますます使いづらい制度となっていく懸念があります。
そうなると「介護保険を頼らない、利用しない」という層も増えてくることになり、結果として介護保険制度というシステムがますます弱体化してしまうという、悪循環に陥ってしまうことでしょう。
介護施設を利用する側として今後の自衛策を考えていくためにも、介護業界の将来の動向についてはつねに高い関心を持って、その推移を見守っていく必要がありそうです。
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